パネライのCEO交代劇が激震！新トップが仕掛ける時計業界の大変革とは

高級時計業界に激震が走っています。イタリアの名門時計ブランド「パネライ」で2025年4月、CEO交代という大きな人事異動が発表されました。7年間ブランドを牽引してきたジャンマルク・ポントルエ氏に代わり、リシュモングループ内のベテラン幹部エマニュエル・ペラン氏が新CEOに就任したのです。

この人事異動は単なる経営陣の交代ではありません。親会社リシュモンの戦略的な組織再編の一環として行われており、パネライというブランドの未来を左右する重要な転換点となる可能性があります。ペラン氏は33年間リシュモンで経験を積み、特にスペシャリストウォッチメーカーズ部門を統括してきた人物。その手腕がパネライの新たな成長にどう活かされるのか、業界関係者から注目が集まっています。

この記事のポイント
✓ 2025年4月就任のパネライ新CEOエマニュエル・ペラン氏の経歴と実績
✓ 前CEO ジャンマルク・ポントルエ氏が7年間で達成した業績と変革
✓ リシュモングループ内での戦略的人事異動の背景と狙い
✓ パネライの歴史と技術革新、未来への展望

パネライの新CEOが話題！エマニュエル・ペラン氏就任の背景

1. 現在のパネライCEOはエマニュエル・ペラン氏
2. ジャンマルク・ポントルエ氏から交代した経緯
3. リシュモングループ内での人事異動の意味
4. パネライの業績と市場での位置
5. 新CEOの経歴と専門性
6. スペシャリストウォッチメーカーズ部門の統合

現在のパネライCEOはエマニュエル・ペラン氏

2025年4月1日付けで、パネライの最高経営責任者（CEO）にエマニュエル・ペラン氏が就任しました。ペラン氏はリシュモングループで33年という長期にわたる経験を持つベテラン幹部です。特に注目すべきは、同氏がリシュモンのスペシャリストウォッチメーカーズ部門の責任者として、パネライ、ジャガー・ルクルト、IWCなどの名門時計ブランドを統括してきた実績です。

ペラン新CEOの就任は、リシュモンCEOのニコラ・ボス氏による戦略的な人事異動の一環として発表されました。ボス氏自身も2024年にCEOに就任したばかりで、グループ全体の経営陣再編を積極的に進めています。この人事異動により、パネライは親会社との連携をより強化しながら、独自のブランド価値向上に取り組むことが期待されています。

興味深いのは、ペラン氏がスペシャリストウォッチメーカーズ部門の責任者を退任することで、同部門は今後も存続するものの、新たな責任者の任命は行われない見通しだという点です。これは、各ブランドの自立性を高め、より機動的な経営体制を構築する狙いがあると推測されます。

新CEOの就任により、パネライは新たな成長戦略を描くことになるでしょう。ペラン氏の豊富な経験と業界知識が、どのようにパネライの未来を形作っていくのか、今後の動向に注目が集まっています。

ジャンマルク・ポントルエ氏から交代した経緯

前CEO ジャンマルク・ポントルエ氏は、2018年4月から約7年間パネライを率いてきました。同氏の退任については、2025年3月17日に自身のInstagramで発表されました。この発表時点では、パネライ側はコメントを控えていましたが、後にペラン氏の就任と同時に、ポントルエ氏が4月1日付けで退社することが正式に明らかになりました。

「私は全部変えたけれども全然変えていない。これはイタリアの慣用句で、全部変えるとは、何も変えていないことだ。ちなみに製品はまったく変えていない。パネライにとってのヒーローはあくまでプロダクト。ただし、コレクションを4つに整理し、素材やサイズなどを変えた。そして、体験付きのプロダクトを加えた。」

出典：【インタビュー】パネライCEO「ジャンマルク・ポントルエ」

このポントルエ氏の発言からは、同氏がパネライの本質を保ちながらも戦略的な変革を行ってきたことが分かります。同氏の在任期間中、パネライは大きな変化を遂げました。特に女性向けの「ルミノールドゥエ」の成功や、顧客の75％が新しい顧客になったという実績は注目に値します。また、顧客の25％が女性になったという数字も、同氏の市場拡大戦略の成果を物語っています。

ポントルエ氏はフランス出身で1964年生まれ。オーデンシア・ナント経営大学院を卒業後、LVMHグループを経て2000年にリシュモングループに入社しました。モンブランで副社長を務めた後、2011年にロジェ・デュブイに転籍し、2012年2月に同社のCEOに就任。売り上げとブランドイメージを大きく向上させた実績を持つ敏腕経営者でした。

同氏の今後の動向については明らかになっていませんが、25年間リシュモンで培った経験と実績を考えると、業界内での新たな挑戦に期待が寄せられています。ポントルエ氏が築いた基盤の上に、新CEOがどのような戦略を展開するかが、パネライの今後を占う重要なポイントとなるでしょう。

リシュモングループ内での人事異動の意味

この度のパネライCEO交代は、リシュモングループ全体で進行している大規模な経営陣再編の一部です。2024年にニコラ・ボス氏がリシュモンのCEOに就任して以来、同グループでは戦略的な人事異動が相次いでいます。ボス氏はヴァン クリーフ＆アーペルのトップとして同ブランドの売上を3倍以上に伸ばした実績を持ち、その手腕をグループ全体に展開しようとしているのです。

📊 リシュモングループ主要人事異動一覧

時期	ブランド	人事内容
2024年6月	リシュモン	ニコラ・ボス氏がCEO就任
2025年4月	パネライ	エマニュエル・ペラン氏がCEO就任
2025年	ジャガー・ルクルト	ジェローム・ランベール氏が現場復帰
2025年	カルティエ	ルイ・フェルラ氏が責任者就任
2025年	ヴァン クリーフ	カトリーヌ・レニエ氏がトップに異動

これらの人事異動には明確な戦略的意図があります。まず、各ブランドの専門性と自立性を高めることです。ペラン氏のようにグループ内で豊富な経験を積んだ人材を各ブランドのトップに配置することで、グループ全体の連携を保ちながらも、各ブランドの独自性を発揮させる狙いがあります。

また、昨今の四半期決算では、リシュモンのスペシャリストウォッチメーカーズ部門はジュエリー部門に比べて厳しい結果となっています。直近の決算では、ジュエリーブランドの売上が14％増となったのに対し、時計部門は中国市場での不調により8％の減収となりました。このような状況下で、時計部門の立て直しは急務の課題となっているのです。

ペラン氏の就任は、この課題解決に向けた重要な一手と考えられます。同氏がスペシャリストウォッチメーカーズ部門で培った経験と知識を、パネライというブランドに集中させることで、より効果的な成長戦略を実現できると期待されています。この人事異動が成功すれば、リシュモンの他の時計ブランドにとっても参考になるモデルケースとなる可能性があります。

パネライの業績と市場での位置

パネライの現在の市場ポジションを理解するには、具体的な数字を見ることが重要です。モルガン・スタンレーおよびリュクスコンサルトの推計によると、パネライは2024年に約5万5000本の時計を製造し、売上高は4億9300万スイスフラン（日本円で約833億円）となりました。これは前年の5億2000万スイスフラン（日本円で約878億円）から減少しており、ブランドが直面している課題を浮き彫りにしています。

この売上減少の背景には、高級時計市場全体の低迷があります。特に中国市場での不調が大きく影響しており、多くの高級時計ブランドが同様の困難に直面しています。しかし、パネライには独自の強みもあります。同ブランドは大型ケース（直径44mm、45mm、47mm）の時計で最大のセールスを記録しており、この分野では他のメーカーにはない独自性を持っています。

🎯 パネライの市場特性分析

項目	詳細	市場への影響
年間生産本数	約5万5000本	限定性とプレミアム感の維持
主力サイズ	44mm, 45mm, 47mm	他社との明確な差別化
顧客層変化	75％が新規顧客	市場拡大の成功
女性顧客比率	25％	新たな成長セグメント
地域展開	アジア市場重視	2002年香港進出が起点

パネライの興味深い特徴は、トレンドに左右されにくいブランドアイデンティティを確立していることです。現在の時計業界では小径化がトレンドとなっていますが、パネライは大型ケースで最大のセールスを記録しています。これは、ブランドが持つ独自の価値観と顧客層の忠誠心を示しています。

また、パネライファンの特性として、一度購入すると「エコシステムに身を置くようになる」という傾向があります。これは、パネライが単なる時計ブランドではなく、ライフスタイルブランドとしての側面を持っていることを意味しています。新CEOのペラン氏は、この強みを活かしながら、さらなる市場拡大を図ることが期待されています。

新CEOの経歴と専門性

エマニュエル・ペラン氏の経歴を詳しく見ると、高級時計業界での豊富な経験と実績が浮かび上がってきます。同氏は1992年からリシュモングループでキャリアをスタートし、33年間という長期にわたって同グループ内で様々な要職を歴任してきました。

まず注目すべきは、ヴァン クリーフ＆アーペルで約9年間キャリアを積んだ点です。同ブランドはハイジュエリーの分野で世界最高峰の地位を占めており、ここで培った高級品マーケティングの知識は、パネライのような高級時計ブランドの経営に直結する経験といえます。

2010年には、同じくリシュモン傘下のカルティエに移籍しました。カルティエは時計とジュエリーの両分野で世界的な成功を収めているブランドであり、ここでの経験はペラン氏にとって非常に価値のあるものとなったはずです。カルティエでも様々な要職を歴任し、2017年からはスペシャリストウォッチメーカーズ部門の責任者として、複数の時計ブランドを統括する重要なポジションに就いています。

🏆 ペラン氏のキャリア詳細

期間	所属・役職	主な成果・経験
1992-2001	ヴァン クリーフ＆アーペル	ハイジュエリー分野での基礎経験
2010-2017	カルティエ各要職	時計・ジュエリー複合ブランド運営
2017-2025	スペシャリストウォッチメーカーズ責任者	複数ブランド統括管理
2025-	パネライCEO	ブランド単独経営へ

さらに興味深いのは、ペラン氏がスイスの時計展示会「ウォッチズ&ワンダーズ」の組織団体であるオート・オルロジュリー財団のプレジデントも務めていたという点です。この経験は、業界全体の動向把握と人脈形成において非常に重要な意味を持ちます。

ペラン氏の専門性で特に注目すべきは、複数ブランドを同時に管理してきた経験です。パネライ、ジャガー・ルクルト、IWCという、それぞれ異なる個性と市場ポジションを持つブランドを統括してきたことで、各ブランドの特性を理解し、それぞれに適した戦略を構築する能力を身につけているはずです。

この豊富な経験が、パネライの新たな成長戦略にどのように活かされるのか、業界関係者は注視しています。おそらくペラン氏は、リシュモングループ内での連携を強化しながらも、パネライの独自性をより明確にする戦略を打ち出すものと推測されます。

スペシャリストウォッチメーカーズ部門の統合

ペラン氏のパネライCEO就任により、リシュモンのスペシャリストウォッチメーカーズ部門は大きな変化を迎えています。同部門は2017年から8年間、ペラン氏によって統括されてきましたが、同氏の退任後、新たな責任者は任命されない見通しです。

この決定は、リシュモンの戦略的な組織再編の一環として理解する必要があります。関係者によると、スペシャリストウォッチメーカーズ部門は今後も独立した組織として存続し、パネライ、ジャガー・ルクルト、IWCなどの業績報告は継続されるとのことです。しかし、統括する責任者を置かないということは、各ブランドの自立性をより高める狙いがあると考えられます。

🔄 組織再編のメリット・デメリット分析

側面	メリット	デメリット
意思決定	より迅速で柔軟な対応が可能	統一感のあるブランド戦略の困難
責任体制	各CEOの責任が明確化	部門全体の調整機能の欠如
市場対応	ブランド固有のニーズに特化	シナジー効果の減少可能性
人材活用	ブランドに最適な人材配置	部門横断的な人材交流の減少

この組織変更の背景には、各ブランドが直面している個別の課題があります。パネライは売上減少、他のブランドもそれぞれ異なる市場環境に対応する必要があります。統括責任者を置かないことで、各ブランドのCEOがより直接的にリシュモン本社と連携し、個別の戦略を立てやすくなると期待されています。

また、この変更により、ペラン氏はパネライに集中できるようになります。これまでのように複数ブランドを同時に見る必要がなくなることで、パネライの課題解決により多くの時間とエネルギーを注げるはずです。特に、売上回復と新たな成長戦略の構築において、この集中的なアプローチは重要な意味を持つでしょう。

一方で、部門間の連携やシナジー効果の創出については、新たな仕組みを構築する必要があるかもしれません。リシュモンがどのような調整機能を設けるかが、この組織再編の成功を左右する要因となりそうです。

パネライのCEO交代が示すブランドの未来戦略

7. パネライの歴史とイタリア海軍との深い関係
8. ルミノールとサブマーシブルの技術革新
9. サステナビリティへの取り組みと環境戦略
10. 女性市場開拓と新たな顧客層の獲得
11. ヴィンテージモデルとプレヴァンドームコレクション
12. オフィチーネパネライのマニュファクチュール戦略
13. まとめ：パネライCEO交代が業界に与える影響

パネライの歴史とイタリア海軍との深い関係

パネライの歴史を語る上で、イタリア海軍との深い関係は欠かせません。1860年、ジョバンニ・パネライがフィレンツェのグラツィエ橋に時計店を創立したのが全ての始まりでした。この店舗は単なる時計の販売店ではなく、工房としての機能も持ち、さらにフィレンツェ初の時計製造学校としての役割も担っていました。

パネライが軍事産業との関わりを深めたのは、グイド・パネライの時代からです。同一族は長年にわたってイタリア海軍に海戦用照準器などの精密機器を納品していました。1916年、パネライは海軍少佐カルロ・ロンコーニの協力を得て、ラジウムを使用した粉末を開発し、計器や照準器のダイヤルに塗布して視認性を高めました。これが後に「ラジオミール」として知られる革新的な技術の誕生です。

⚓ パネライとイタリア海軍の関係史

年代	出来事	軍事技術への貢献
1860年	創業・時計店開設	精密機器の基礎技術確立
1916年	ラジオミール特許取得	夜光技術の革新
1935年	水中攻撃車両プログラム参加	潜水用時計の開発
1940年代	ラジオミール（REF.3646）完成	特殊潜水部隊への正式納入
1956年	エジプト海軍向けモデル開発	国際的な軍事技術展開

1940年代に完成したラジオミール（REF.3646）は、現在のパネライの原型となる重要なモデルです。直径47mmという大型スティール製クッション型ケース、夜光数字とインデックス、ケースにはんだ付けされたラグなど、現代のパネライに受け継がれる要素がここに集約されています。

特に注目すべきは、1956年に開発された「エジプシャン」モデルです。これはイタリア海軍の承認を得てエジプト海軍に供給されたモデルで、直径60mmという圧倒的なケースサイズと、スイス製アンジェリュス製ムーブメントによる8日間のパワーリザーブを備えていました。このモデルで初めて採用されたリュウズプロテクターは、現在でもパネライの象徴的なデザイン要素となっています。

この軍事技術開発の歴史が、パネライに独特のブランドアイデンティティを与えています。単なる高級時計ブランドではなく、実用性と堅牢性を重視した「プロフェッショナル向けツール」としての側面が、多くのファンを魅了する理由となっているのです。新CEOのペラン氏も、この歴史的背景を活かしたブランド戦略を展開することが予想されます。

ルミノールとサブマーシブルの技術革新

パネライの技術革新の歴史において、発光技術の進歩は極めて重要な位置を占めています。1949年1月11日、パネライは「ルミノール」という名称を使用するための特許を取得しました。これは、放射性物質を含む素材の取扱いに注意が必要であることが判明し、より安全で中立的な名称が必要になったためです。

ルミノールには、トリチウム（水素アイソトープ）を原料とする新しい発光物質が使われており、放射性物質の量が非常に少なく、無害であると認知されるようになりました。この技術革新により、パネライは夜間でも優れた視認性を持つ時計を製造できるようになり、軍事用途だけでなく民生用途でも大きな意味を持つようになりました。

🔬 パネライの発光技術進化史

技術名	開発年	特徴	安全性
ラジオミール	1916年	ラジウムベース、極めて明るい発光	放射性物質使用
ルミノール	1949年	トリチウムベース、無害レベル	安全性向上
現代ルミノール	2020年	70年保証対応	完全安全

現代のパネライにおける技術革新の象徴が「サブマーシブル」コレクションです。このコレクションは元々ルミノールの派生モデルでしたが、2019年にポントルエ前CEOの戦略により独立したコレクションとして位置づけられました。サブマーシブルは、パネライのモットーである「Laboratorio Di Idee（アイデアの工房）」を体現したコレクションとして、新素材を多用した革新的なモデルを展開しています。

サブマーシブルコレクションの技術的特徴は多岐にわたります。300mまでの防水性能、リュウズプロテクター、逆回転防止ベゼルなど、すべてパネライの海との長年の関係に基づいた実用的な機能です。さらに、ブルーセラミックベゼルや異素材のダイヤル、リサイクルチタン由来の「エコチタン™」の採用など、従来にない素材アプローチも特徴的です。

特に注目すべきは、2022年に発表された「サブマーシブル クアランタクアトロ」（44mm）の追加です。これまでの47mmと42mmに加えて44mmサイズを追加することで、より幅広い顧客層への対応を可能にしました。このサイズ展開の戦略は、ポントルエ前CEOが推進した市場拡大戦略の成果の一つといえます。

新CEOのペラン氏は、この技術革新の流れを継承しながら、さらなる発展を図ることが期待されています。特に、サステナビリティを重視した新素材の開発や、デジタル技術との融合など、次世代の時計製造技術への投資が注目されるポイントです。

サステナビリティへの取り組みと環境戦略

パネライのサステナビリティへの取り組みは、前CEO ジャンマルク・ポントルエ氏の時代に大きく加速しました。同氏が掲げた「2025年までにコレクションの30%をリサイクル素材を使用した次世代素材で製造する」という具体的な目標は、高級時計業界において先進的な取り組みとして注目されました。

この戦略の核となっているのが「eスティール™」の開発です。これは、さまざまな産業からのスクラップ鉄を100%リサイクルして作られた次世代金属で、耐腐食性に優れ、金属アレルギーにも配慮した肌にやさしい素材です。従来のスティールと置き換えることによって、製造時に排出される二酸化炭素量を大幅に削減することも可能になりました。

♻️ パネライのサステナビリティ取り組み一覧

分野	具体的取り組み	目標・効果
素材開発	eスティール™の採用	CO₂削減、リサイクル率向上
製造工程	100%水力発電での生産	再生可能エネルギー100%化
廃棄物削減	雨水再利用システム	水資源の有効活用
パッケージ	リサイクル素材使用	全工程でのサステナビリティ
海洋保護	プラスチック収集活動	従業員参加の環境保護

2021年には、パネライとユネスコ政府間海洋学委員会（IOC-UNESCO）が、持続可能な開発のための国連海洋科学の10年（2021-2030年）の一環として、海洋科学についての知見を深める活動で提携しています。これは、パネライのルーツが海と密接に関係していることから、自然な流れでの取り組みといえます。

同年発表された「サブマーシブル eLAB-ID™」は、総重量の98.6%が高比率のリサイクル素材を使用しており、総重量の85%以上が一次原材料を必要としませんでした。このモデルは、時計製造業界の環境への影響を減らすために、リサイクル素材の使用と循環経済の発展をより促進することを主張する象徴的な製品となっています。

興味深いのは、パネライの従業員をあげてプラスチックを収集する日を設けて活動するなど、企業文化レベルでのサステナビリティ意識の浸透です。このような取り組みは、単なる環境対策を超えて、ブランドアイデンティティの一部として機能しています。

新CEOのペラン氏は、これらの取り組みをさらに発展させることが期待されています。おそらく、リシュモングループ全体の環境戦略との連携を強化しながら、パネライ独自のサステナビリティ戦略を構築することになるでしょう。特に、2025年の目標達成に向けた具体的な施策の実行が注目されるポイントです。

女性市場開拓と新たな顧客層の獲得

ポントルエ前CEOが最も成功した戦略の一つが、女性市場の開拓でした。パネライといえば大型ケースの男性向け時計というイメージが強かったのですが、同氏の戦略により顧客の25％が女性になったという実績は、ブランドの可能性を大きく広げる成果でした。

この成功の核となったのが「ルミノールドゥエ」コレクションです。2016年に正式発表されたこのコレクションは、パネライの歴史の新たな章を体現するものでした。1950年代のクラシックな「ルミノール」モデルから着想を得ながらも、より洗練されたデザインと、女性にも受け入れられるサイズ感を実現しています。

👩 女性市場開拓の成果分析

指標	数値	戦略的意味
女性顧客比率	25%	新市場セグメントの確立
新規顧客比率	75%	ブランド拡大の成功
サイズ展開	38mm, 40mm, 42mm	多様性への対応
デザインアプローチ	イタリアンライフスタイル	文化的魅力の訴求

ポントルエ氏の発言で注目すべきは、サイズ展開に関する哲学です。同氏は「現在のトレンドは確かに小さなサイズだ。しかしこういう環境にあっても、パネライは大きなケースで最大のセールスを記録している」と述べています。つまり、トレンドに迎合するのではなく、パネライの独自性を保ちながら新しい市場にアプローチするという戦略でした。

「正直、小さなケースをリリースすることは難しくない。難しいのは、スタイルを作り上げることなのだ」

出典：【インタビュー】パネライCEO「ジャンマルク・ポントルエ」

この発言は、パネライのデザイン哲学を端的に表しています。単にサイズを変更するのではなく、パネライらしいスタイルを保ちながら新しい顧客層にアプローチする。この考え方が、女性市場開拓の成功につながったのです。

また、ブティックコンセプトの革新も重要な要素でした。ジュネーブのブティックや大阪のブティックリニューアルでは、イタリアのライフスタイルを感じながらショッピングの経験ができるような空間作りを実現しました。これにより、パネライは単なる時計ブランドから、イタリアンライフスタイルを提案するブランドへと進化しています。

新CEOのペラン氏は、この成功を基盤としてさらなる市場拡大を図ることが期待されています。特に、アジア市場での女性顧客開拓や、若年層へのアプローチなど、多様化する顧客ニーズへの対応が重要なポイントとなりそうです。

ヴィンテージモデルとプレヴァンドームコレクション

パネライのコレクター市場で特に注目されているのが、プレヴァンドームコレクションです。これは1993年から1997年までの期間、つまりリシュモン（当時のヴァンドームグループ）傘下に入る前に製造されたモデル群を指します。この時期のモデルは現在、コレクターの間で極めて高い評価と価格で取引されています。

プレヴァンドーム時代の始まりは、1992年に始まった深刻な経済・政治危機への対策として、パネライが一般向け腕時計市場への参入を決定したことでした。それまでイタリア海軍向けの軍事機器を製造していた同社が、初めて民生向けの時計を発表したのです。

🏛️ プレヴァンドームコレクションの歴史的価値

年代	重要な出来事	コレクター市場への影響
1993年	初の一般向けコレクション発表	希少性の基礎確立
1996年	シルベスター・スタローン着用	ハリウッド効果で知名度急上昇
1997年	リシュモン傘下入り	プレヴァンドーム時代の終了
1998年	SIHH初参加	国際的ブランドとしての地位確立

1993年に発表された最初のコレクションは、直径44mmの「ルミノール」と「ルミノール マリーナ」、そして直径42mmの「マーレノストゥルム」クロノグラフから、シリアルナンバー入りの限定モデルが合計10種類登場しました。これらのモデルは、イタリア海軍特殊潜水部隊のために開発された歴史的なモデルからインスピレーションを得たものです。

特に1996年の出来事は、パネライの歴史において転換点となりました。アメリカの俳優シルベスター・スタローンが、映画『デイライト』で着用するために特注モデルを依頼したのです。これをきっかけに「ルミノール スライテック（Slytech）」（スライはスタローンのニックネーム）と呼ばれるパーソナライズドシリーズが発売され、パネライの知名度は一気に国際的なレベルに押し上げられました。

プレヴァンドーム時代のモデルが特に価値が高い理由は、製造本数の少なさと歴史的意義にあります。当時はまだ一般には知られていないブランドだったため、生産数は限られていました。しかし、現在では元祖パネライとしての価値が認められ、オークションでは数千万円で取引されることも珍しくありません。

1998年に発表された記念モデルは特に注目に値します。パネライ初の腕時計を60本限定で復刻したこのモデルは、クッション型ケースがプラチナ製で、当時のロレックス製オリジナルムーブメントを搭載していました。このような限定性と歴史性が、現在のコレクター市場での高い評価につながっています。

新CEOのペラン氏は、この歴史的資産をどのように活用するかが注目されています。おそらく、ヴィンテージモデルの復刻や、歴史を基にした新しいコレクション展開など、パネライの豊かな歴史を現代に蘇らせる戦略を打ち出す可能性があります。

オフィチーネパネライのマニュファクチュール戦略

パネライの製造戦略において、2002年のスイス・ヌーシャテルへのマニュファクチュール設立は極めて重要な転換点でした。これにより、パネライはスイスが誇る高度な時計製造技術と、イタリア発祥の卓越したデザインおよびノウハウを統合することが可能になりました。

2014年には、ピエール・ア・ボットに新しいマニュファクチュールがオープンしました。この新施設では、高級時計製造に関する高度な専門技術が一堂に会し、イタリアの優れたデザインとスイスで生まれた伝統的な技術を融合させています。この施設の開設により、パネライは真の意味でのマニュファクチュールブランドとしての地位を確立しました。

🏭 パネライマニュファクチュールの技術発展

年代	ムーブメント	技術的特徴	戦略的意義
2005年	P.2002	GMT機能、8日間パワーリザーブ	初の自社製ムーブメント
2007年	P.2005	トゥールビヨン、30秒1回転	独自解釈の複雑機構
2008年	P.9000	72時間パワーリザーブ	汎用性の高い基幹ムーブメント
2015年	P.1000	3.85mm厚、薄型設計	技術的限界への挑戦

特に注目すべきは、P.2005トゥールビヨンの独創性です。従来のトゥールビヨンではケージが軸に対して平行に回転しますが、パネライのトゥールビヨンでは軸がテンプの軸に対して直角に配置されています。また、従来は1分間で1回転するところを30秒で1回転するという、まったく新しいアプローチを採用しています。

パワーリザーブの長期化も、パネライマニュファクチュールの特徴的な技術です。1950年代のアンジェリュス製ムーブメントと同様の8日間パワーリザーブを現代技術で実現したP.2002は、パネライのDNAに不可欠な要素となっています。この長時間パワーリザーブは、軍事用途での実用性を重視してきたパネライの歴史的背景と合致しています。

2010年には、ガリレオ・ガリレイの最初の天体観測から400年という節目を記念して、「ラストロノモ」、「ロ シェンツィアート」、そして「ジュピテリウム」クロックという3部作が制作されました。特に「ジュピテリウム」は永久カレンダーを搭載した天文時計で、木星の4つの衛星（ガリレオ衛星）の位置を表示する極めて複雑な機構を持っています。

新素材の開発も、パネライマニュファクチュールの重要な取り組みです。2017年には「ルミノール LAB-ID カーボテック™」を発表し、カーボンの無限の可能性を引き出す画期的な技術開発を行いました。同年発表された「サブマーシブル BMG-TECH™」では、バルク金属ガラスという革新的な素材を採用しています。

新CEOのペラン氏は、このマニュファクチュール戦略をさらに発展させることが期待されています。特に、デジタル技術の導入や次世代素材の開発、そしてサステナビリティを考慮した製造プロセスの構築など、現代的な課題への対応が重要なポイントとなりそうです。リシュモングループ内での技術共有と、パネライ独自の技術開発のバランスをどう取るかが、同氏の手腕の見せ所となるでしょう。

まとめ：パネライCEO交代が業界に与える影響

最後に記事のポイントをまとめます。

1. エマニュエル・ペラン氏が2025年4月1日付けでパネライの新CEOに就任した
2. 前CEO ジャンマルク・ポントルエ氏は7年間の在任期間中に顧客層の75％を新規に開拓した
3. ペラン氏はリシュモンで33年の経験を持ち、スペシャリストウォッチメーカーズ部門を統括していた
4. リシュモングループ全体で戦略的な経営陣再編が進行中である
5. パネライの2024年売上は4億9300万スイスフラン、前年比で減少傾向にある
6. スペシャリストウォッチメーカーズ部門は新たな責任者を置かない方針に転換した
7. パネライは1860年創業でイタリア海軍との深い歴史的関係を持つ
8. ラジオミールとルミノールの発光技術が同社の技術革新の基盤となっている
9. サブマーシブルコレクションは2019年に独立したコレクションとして確立された
10. 2025年までにコレクションの30％をリサイクル素材で製造する目標を掲げている
11. 女性顧客が25％まで拡大し、新たな市場セグメントを開拓した
12. プレヴァンドーム時代（1993-1997年）のモデルはコレクター市場で高い評価を受けている
13. 2002年にスイス・ヌーシャテルにマニュファクチュールを設立し技術力を強化した
14. P.2005トゥールビヨンなど独創的な複雑機構を開発している
15. カーボテックやBMG-TECH など革新的な新素材を積極採用している
16. 海洋環境保護活動にも積極的に取り組んでいる
17. 大型ケース（44-47mm）での差別化戦略を堅持している
18. イタリアンライフスタイルを提案するブランドコンセプトを確立した
19. 新CEOの手腕がパネライの今後の成長戦略を左右する重要な要因となる
20. 高級時計業界全体における組織再編のモデルケースとして注目されている

記事作成にあたり参考にさせて頂いたサイト

1. リシュモンのエマニュエル・ペラン氏、パネライCEOに就任──スペシャリスト ウオッチメーカーズの責任者を退任
2. 【インタビュー】パネライCEO「ジャンマルク・ポントルエ」
3. オフィチーネ パネライの歴史
4. 伊高級時計ブランド「パネライ」に新CEO　親会社リシュモンのウオッチ部門トップ（WWDJAPAN.com）
5. イタリア高級時計「パネライ」CEOに聞く
6. 【PANERAI】2019年パネライ変革の年　新CEOジャンマルク・ポントルエ
7. 伊高級時計ブランド「パネライ」に新CEO　親会社リシュモンのウオッチ部門トップ
8. 【Watches and Wonders 2024】現地レポート－パネライの新作時計、CEOご本人登場！
9. イタリアのスポーツウォッチブランド「パネライ」からサステナブルな新作が登場！

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